「伯耆安綱と西伯耆の鉄に関する考察」

【1】緒言、目的、材料と方法の概要
米子(西伯耆)・山陰の古代史
緒言
 名物「童子切り」は、鎬造湾刀様式を備えた最初の日本刀ともされ、国宝にして天下五剣の一つに挙げられている。
 その作者とされる伯耆安綱については、『太平記』に伯耆国会見郡の住人と記されるのみで、その生存した年代、出自、経歴、人物像などについて詳らかではない。
 しかしながら、安綱銘の刀が存在することから、安綱という刀工が実在したことは疑う余地がないのも事実である。

 『太平記』の記述を信じれば、最古にして稀代の名刀がかつての伯耆国会見郡で作られていたことになる。
 それは伯耆安綱という名工のみならず、それを叶える良質な鉄素材と、その加工技術がこの地にあったことを物語っている。
 安綱の詳細を示す史料は皆無に等しく、今までも米子市と伯耆町を中心に幾つかの調査、考察が試みられてきている。
 しかし、あまりにも乏しい史料しか残っていないこと等から、その解明には至っていない。
 1000年以上の時を隔てて安綱の実像を探ることは不可能かもしれないが、今一度、安綱銘のある刀剣や、残された伝承などから、安綱が生きた年代、出自、経歴、人物像、及び当時の伯耆国の鉄について考察を試みたい。
                                                                       
     
【1】目的
 本考察の目的とするところは、何故この西伯耆の地に、天下の名刀とされる「童子切り安綱」が誕生したかを探る事にある。
 「童子切り安綱」という最古にして希代の日本刀が生まれた背景には、以下の条件が不可欠である。
    1 そこに良質な鉄素材が在った事。 
    2 それを加工する技術と技術者が居た事。


 古代西伯耆の会見郡に、上記の2つが兼ね備わっていたことが天下の名刀を生み出す要件である。
 その背景を探りながら、併せて安綱の人物像にも考察を巡らせる事が出来ればと考える。


【2】材料と方法
 古代西伯耆の会見郡に、良質な鉄素材と、それを加工する技術者が居たことが、天下の名刀を生み出した背景である事は間違いない。
 これらを明快に示してくれる文献史料は極めて乏しいと言わざるを得ない。
 この様な状況下で安綱の幻影を探ることは困難であるかもしれないが、幾つかの手がかりは残されている。

 直接安綱の名前が記されている文献史料があり、そこからさらに関わりのある人間社会状況を考える事が出来る。
 さらには、安綱銘のある刀剣が存在することから、刀剣の発達史を追うことも何らかの答えを与えてくれそうな予感がする。

 文献史料からは、安綱が生きた時代背景や安綱を取り巻いた人々を考察したい。
 安綱および真守銘のある刀剣からも、刀剣の発達史や伯耆国の製鉄遺跡、伯耆国の鉄、あるいは鍛刀に関わった技術者あるいは集団を考える事で安綱の何かが分かると思われる。
 以上を検討するために、先ずは以下の項目についての再考を行う。

  1:安綱に関する文献・史料
      安綱の名前が記されている歴史書 :「太平記」  
      安綱の名前が記されている刀剣書 :「泰時評定分」  「上古秘談抄」  「正和銘尽」
            
  2:安綱および真守銘のある刀剣
      安綱銘のある刀剣  
          東京国立博物館蔵 「童子切安綱」 太刀  銘 安綱  国宝
          北野天満宮蔵 「鬼切安綱」  太刀 銘 安綱  重要文化財
          静嘉堂文庫美術館蔵  太刀  銘 安綱  重要文化財
          紀州東照宮蔵  太刀  銘 安綱  重要文化財
          文化庁保管 太刀  銘 安綱  重要文化財 
      真守銘のある刀剣
          奥州津軽家所蔵 綱丸(つなまる)  立割真守(たてわりさねもり)
          高照神社蔵 銘 真守         抜丸(ぬけまる)


【3】結果および考察
   T:文献史料からの結果・考察
     
     1:安綱を取り巻く人々
          坂上田村麻呂、源頼光と四天王、源満仲、一条天皇、三条宗近など
          安綱と関連の示されている人物から、安綱の生きた時代を考える

     1:安綱が生きた時代背景
          日本刀という先進的な武器を生み出し発達させた時代背景
             38年戦争、810年薬子の変、889年寛平・延喜東国の乱、935年承平天慶の乱など
             対蝦夷政策  対新羅政策と俘囚

  U:刀剣類からの結果・考察
     2−A:刀剣の発達史から安綱を考察
          直刀 蕨手刀 毛抜き形太刀 

     2−B:伯耆国の製鉄遺跡と伯耆国の鉄

     2−C:鍛刀に関わる技術者あるいは集団
          刀工 鉄と俘囚


【4】まとめ
     伯耆安綱と童子切



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初載 2018−9−25

サイト内−参考資料
鉄1(古代日本の産鉄・製鉄)  鉄2(世界)  鉄器:武具・農具・工具・ほか   刀剣の変遷   著明な刀剣類 

銅:青銅器・銅鐸・銅鏡など  鉄剣・鉄刀の銘文   鬼伝承     

刀工  刀剣書  本阿弥家

五箇伝:大和伝(大和五派 天国)  山城伝(三条 来 粟田口)  備前伝(長船 一文字)  美濃伝(孫六)  相州伝(正宗)     

脇物 : 東北 東海 近畿・北陸 中国 九州   伯耆安綱   源頼光と四天王   源満仲   坂上田村麻呂


参考資料−1
「伝承日本刀発祥の地調査報告書」 1986 伯耆安綱鍛錬の場探求会
「大神山神社御神宝刀調査報告書」 1988 伯耆安綱鍛錬の場探求会
「伯耆国縣村日下鍛冶 二代沢口大原尉真守 史実と伝承」 
『三朝町誌』 「大原安綱・真守」 p550〜552 1965


参考資料−2
「日本刀 源流への旅路(1)」 花岡忠男  刀剣美術 Vol734−3月号 2018 日刀保 
「日本刀 源流への旅路(2)」 花岡忠男  刀剣美術 Vol735−4月号 2018 日刀保
「日本刀 源流への旅路(3)」 花岡忠男  刀剣美術 Vol736−5月号 2018 日刀保

「日本刀の冶金学的研究」 谷村照 鉄と銅Vol3 p497〜508 1981
「安綱の時代」 川ア晶紀平 別冊歴史読本 伯耆国・大山 p104〜111 Vol40−9 2018

『日本刀工辞典 古刀篇』 藤代義雄・藤代松雄著 (藤代商店 1937)
『図解 日本刀事典―刀・拵から刀工・名刀まで刀剣用語徹底網羅』 (歴史群像編集部 2006)
『図説・日本刀大全―決定版 』 (歴史群像シリーズ 2006 稲田和彦
『写真で覚える日本刀の基礎知識』  (2009 全日本刀匠会)
『日本刀の科学 武器としての合理性と機能美に科学で迫る』  (サイエンス・アイ新書 2016)
『日本刀の教科書』 (東京堂出版 2014 渡邉 妙子)

『銘尽』(めいづくし) 国立国会図書館 (http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288371)

『蕨手刀 日本刀の始原に関する一考察』 石井昌国 (雄山閣出版 1966年)
『日本刀全集・1 日本刀の歴史』 小泉富太郎、辻本直男、沼田鎌次、渡辺国雄  徳間書店
「弥生時代の鉄剣・鉄刀について」 会下和宏  (日本考古学雑誌 第23号 p19−p39)

『蕨手刀の考古学』  ものが語る歴史  39  同成社 2018/12/12 黒済 和彦
『つくられたエミシ』  市民の考古学  15  同成社 2018/08/15 松本建速


参考資料−3
『鉄から読む日本の歴史』 窪田蔵郎 講談社 2003 
『古代史の謎は鉄で解ける』 長野正孝 PHP新書1996
『鉄と俘囚の古代史』 柴田弘武 彩流者 1998 
『古代の鉄と神々』 真弓常忠 学生社 1997 
『古代山人の興亡』 井口一幸 彩流社 1996 
『邪馬台国と鉄の道』 小路田泰直 洋泉者 2011

「弥生時代後期から古墳時代初頭における鉄製武器をめぐって」  野島 永 河P正利先生退官記念論文集 (2004年)所収
「分割された剣」  野島 永 川越哲志先生退官記念論文集 考古論集 (2005年)所収
「弥生時代における初期鉄器の舶載時期とその流通構造の解明」  野島 永他

日立金属HP 「たたらの話」  

ウキペディア 「鉄」、「砂鉄」、「蹈鞴」、「鞴」、「木炭」、「鉄穴流し」、「刀工」


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