相州伝について 米子(西伯耆)・山陰の古代史 
鎌倉幕府が、相模国において、山城国から粟田口国綱を、備前国から一文字分派の国宗を、少し遅れて備前国福岡一文字助真を、鎌倉へ招いたことに始まる刀工の流派。
相州伝について
相州伝
相州伝の成立経過
元来、相州鎌倉には刀工はいなかった。
鎌倉幕府開設後、第5代執権・北条時頼は、山城国から粟田口国綱、備前から備前三郎国宗、一文字助真らを召して鍛刀させた。
中期〜末期に粟田口系の新藤五国光、国広、行光らの名工が出て相州物の基礎ができた。
末期に正宗が出て、ここにいわゆる相州伝の鍛法、すなわち地肌に強い沸 (にえ) がつき、地景 (ちけい) が入り、働きのある大模様の刃文を焼いた妙技を完成した。
  粟田口國綱・備前国宗・一文字助真→→新藤五国光→→長谷部国重、国広、行光正宗→→貞宗→→広光、秋広

相州鍛冶の実質的な祖とされているのは鎌倉時代末期に活動し、正宗の師とされている新藤五国光である。
  相模鍛冶系図    貞國─國弘─助真─國光─國重・國廣・行光・正宗
  鎌倉鍛冶       國宗─國光─進藤太郎・進藤又四郎・大進房ひがきなり・行光藤三郎入道・國光弟子。


相州伝の特徴
実用本位の造り
相州伝の鍛法,すなわち地肌に強い沸 (にえ) がつき、地景 (ちけい) が入り、働きのある大模様の刃文を焼いた妙技を完成した。


相州伝と刀工
新藤五 国光(しんとうご くにみつ)
  人物
概要
鎌倉時代後期の相模国にて活動した刀工。
永仁元年(1293年)から元亨4年(1324年)までの在銘作刀がある
相州伝と呼ばれる作風・系統の実質的創始者である。

系譜
刀剣の古伝書に所載する国光の系譜は諸説ある。
  師については、備前三郎国宗、一文字助真、京の粟田口国綱の三説があり、
  国綱を父、国宗を師とする説もある
  国光を粟田口国綱の子で備前三郎国宗の弟子とする説が、室町時代以来の通説である。

作刀
粟田口伝と備前伝を受け、粟田口伝の高貴な姿の直刃を基調とし、それより沸が強く、刃文に金筋、稲妻が現れ、地刃の強い相州伝の基礎となる姿。

国宝
短刀  銘 国光(名物会津新藤五)(東京・法人蔵、広島・ふくやま美術館に寄託)
短刀  銘 国光(大阪・個人蔵) - 指表に素剣、指裏に不動明王を表す梵字の彫物がある。
短刀  銘 国光(所在不明) - 徳川慶喜旧蔵品で、国光の作中でも一段と地刃の働きに富んだものである。

重要文化財
短刀  銘 鎌倉住人新藤五国光作 永仁元年十月三日(神奈川・法人蔵)
       永仁元年(1293年)の年記とともに、「新藤五」と名乗っていたこと、鎌倉に住していたことがわかる。
短刀  銘 国光 元応二年三月廿日(所在不明)
短刀  銘 国光(土浦市蔵)
短刀  銘 国光(所在不明、1959年重文指定)
短刀  銘 国光(東京国立博物館)伊達家伝来
太刀  銘 国光(東京・静嘉堂文庫美術館)
短刀  銘 国光(静岡・佐野美術館) - 国光の短刀には珍しい冠落し造である。
短刀  銘 国光 徳治三年(以下切)(愛知・熱田神宮)
短刀  銘 国光(大阪・妙国寺)
短刀  銘 国光(和歌山・金剛峯寺)

重要美術品等
短刀  銘 鎌倉住新藤五國光法名光心 正和二二年□月十日(黒川古文化研究所)ほか


藤三郎行光
  人物
新藤五国光の門人で、五郎正宗の父
通称、藤三郎。相州伝に山城伝の影響を与えた。

作刀


五郎入道正宗
  人物
鎌倉時代末期から南北朝時代初期に相模国鎌倉で活動した刀工。
五郎入道正宗、岡崎正宗、岡崎五郎入道とも称され、日本刀剣史上もっとも著名な刀工の一人。

作刀
正宗の作風の特色
  硬軟の鋼を組み合わせ鍛錬し、独自の地鉄を創っていること
  「(にえ)」の美を追求していること。
  地刃に「働き」があること。

  「沸」とは刃紋や地鉄を構成する肉眼で見分けられる大粒の金属粒子。
  「働き」とは刀身の地鉄や刃文に見えるさまざまな模様や変化である。

国宝
刀   銘 城 和泉守所持正宗磨上本阿(花押)70.8cm 東京国立博物館蔵
      武田家の家臣でのち徳川家康に仕えた城和泉守昌茂の所持。のち津軽家所蔵となる。
刀   無銘 大磨上(名物太郎作正宗)64.3cm 前田育徳会蔵号は徳川家の家臣・水野太郎作正重の所持にちなむ。
      正重から徳川秀忠に献上。
      徳川家光の代に家光の養女大姫(徳川頼房息女、前田光高室)が前田家に輿入れするに持参し、以後前田家に伝来する。
刀   無銘大磨上(名物観世正宗)64.6cm 東京国立博物館蔵号は観世黒雪の所持にちなむ。
      黒雪から徳川家康が召し上げ、徳川秀忠の代に息女千姫(豊臣秀頼室、後に本多忠刻室)の輿入れに際して本多家に持参。
      後に徳川将軍家に戻り、徳川慶喜が有栖川宮に献上した。
刀   銘  正宗本阿(花押)(名物中務正宗)67.0cm 文化庁所有号は徳川家の家臣・本多忠勝の所持に因む。
      忠勝から徳川家康に献上。水戸徳川家→甲府藩主・徳川綱豊を経て再び徳川将軍家の所蔵となった。
短刀  無銘(名物庖丁正宗)24.1cm 徳川美術館蔵
      駿府御分物(徳川家康遺品)中にあったもので、尾張徳川家に伝来した。
短刀  無銘(名物庖丁正宗)21.8cm 永青文庫蔵
      安国寺恵瓊の蔵刀で、関ヶ原の戦いにおいて恵瓊を捕縛した奥平信昌が所持し、徳川家康に献上。
      家康から松平忠明(信昌の子、家康の外孫)に下賜され、奥平松平家に伝来した。
短刀  無銘(名物庖丁正宗)21.7cm 大阪府・法人蔵。日向延岡内藤家伝来。
短刀  無銘(名物日向正宗)24.8cm 三井記念美術館蔵。
     号は水野日向守勝成の所持にちなむ。
     石田三成から妹婿福原長堯に与えられ、関ヶ原の戦いの際、水野勝成が奪った。
短刀  無銘(名物九鬼正宗)24.8cm 林原美術館蔵。
     号は九鬼嘉隆の子・長門守守隆の所持にちなむ。
     守隆から徳川家康に献上され、紀州徳川家・徳川頼宣を経て伊予西条松平家の所蔵となる。

重要文化財
刀   無銘大磨上(名物石田正宗)68.8cm 東京国立博物館蔵号は石田三成の所持に因む。
    毛利若狭守→宇喜多秀家→石田三成を経て結城(松平)秀康から津山松平家の所蔵となる。
刀   無銘大磨上 68.2cm 佐野美術館蔵
刀   銘 正宗磨上  本阿弥(花押)(名物池田正宗)66.9cm 徳川美術館蔵
    号は池田備中守長吉の所持に因む。伊達政宗→池田備中守長吉→徳川秀忠と伝来した後、尾張徳川家の所蔵となる。
刀   無銘 73.2cm 徳川美術館蔵
短刀  銘 正宗(名物不動正宗)25.1cm 徳川美術館蔵
短刀  無銘(名物伏見正宗)25.7cm 個人蔵
    号は飛騨高山城主・金森長近が、伏見で求め、徳川家へ献上したことによる。


補足:正宗十哲(まさむね じってつ)
鎌倉時代末期の相模国の刀工正宗の高弟といわれる10名の刀工。ただし作刀年代等から見て、必ずしも全員が正宗の直弟子とはいえないことが専門家の間では定説となっている。

  備前長船兼光
  備前国長義
  左文字(筑前国)
  来国次(山城国)*
  長谷部国重(山城国)
  郷義弘(越中国)
  越中国則重
  志津三郎兼氏(美濃国)
  美濃国金重
  石州直綱

 なお、来国次または石州直綱を除いて代わりに以下を入れる説もある: 金剛兵衛盛高(筑前国)


貞宗
  人物
鎌倉時代末期の相模国(神奈川県)の刀工で。
正宗の子、または養子と伝えられ、現存在銘刀はないが相州伝の代表的刀匠とされている。

作刀
貞宗の現存作刀には在銘物は皆無である。
「朱銘貞宗」とあるのは、生ぶ茎(うぶなかご)無銘の短刀に本阿弥家が朱漆で鑑定銘を入れたもので、貞宗本人の銘ではない。

国宝
刀    無銘 貞宗(亀甲貞宗)(東京国立博物館)
短刀  朱銘 貞宗 本阿(花押)(伏見貞宗)(黒川古文化研究所)
短刀  無銘 貞宗(寺沢貞宗)(文化庁)
短刀  無銘 貞宗(徳善院貞宗)(三井記念美術館)

重要文化財
刀   無銘 貞宗(切刃貞宗)(東京国立博物館)
刀   無銘 貞宗(二筋樋貞宗)(個人蔵)
刀   無銘 伝貞宗(幅広貞宗)(法人蔵)
刀   無銘 伝貞宗(個人蔵)1952年指定
刀   無銘 伝貞宗(個人蔵)1954年指定
短刀  無銘 貞宗(池田貞宗)(所在不明)
短刀  無銘 伝貞宗(斎村貞宗)(個人蔵)
短刀  無銘 貞宗(石田貞宗)(東京国立博物館)
短刀  朱銘 貞宗 本阿(花押)(朱判貞宗)(法人蔵)
短刀  無銘 貞宗(物吉貞宗)(愛知・徳川美術館)
短刀  無銘 貞宗(個人蔵)1938年指定、伊達家伝来
脇指  無銘 伝貞宗(久能山東照宮)


大進房 (だいしんぼう)祐慶
  鎌倉時代の刀剣彫刻師。名は祐慶。
相州鍛冶(かじ)の祖新藤五国光(くにみつ)の弟子。
国光、行光、正宗らの刀の刀身に梵字(ぼんじ)、倶利迦羅(くりから)竜、不動明王などの彫り物をほどこしたとされる。




初載2018-10-5
参考資料等
「図解 日本刀事典―刀・拵から刀工・名刀まで刀剣用語徹底網羅」 (歴史群像編集部 2006)
「図説・日本刀大全―決定版 」 (歴史群像シリーズ 2006 稲田和彦
「写真で覚える日本刀の基礎知識」  (2009 全日本刀匠会)
「日本刀の科学 武器としての合理性と機能美に科学で迫る」  (サイエンス・アイ新書 2016)
「日本刀の教科書」 (東京堂出版 2014 渡邉 妙子)

『日本刀図鑑』 (宝島社、2015、別冊宝島2646号)

『銘尽』(めいづくし) 国立国会図書館 (http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288371)

Wikipedia 「正宗」 「貞宗」 

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