鉄剣・鉄刀
鉄剣
鉄製の両刃の武具。
中国では戦国時代末期から、日本では弥生・古墳時代に現れた。


鉄刀
鉄製の片刃の武具。
中国から伝わった直刀を基に、平安時代の頃から独特の反りをつけた「太刀」と呼ばれる刀が製作されはじめ、武人の一般的な武器となった。


象嵌 (「象眼」とも書く)
象嵌とは
象嵌本来の意味は、一つの素材に異質の素材を嵌め込むと言う意味で金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌等がある。
工芸技法の一種で、この技法を用いて製造された工芸品を指すこともある。

製作工程
ある一つの素材の表面の一部を削り、その窪みに別の素材の線や断片などを嵌め込んで紋様などを形成し、最終的には磨き上げたり塗装を施したりなどして滑らかな表面に仕上げる。



金石文
金石文(きんせきぶん)とは
金石文
金石文は、金属(刀剣など)や石(石碑・墓碑など)などに刻まれた文章

金石文の種類
銘文=石碑以外の金石に記した文 
碑文=石碑に記した文



鉄剣・鉄刀銘文
稲荷台1号墳出土鉄剣の銘文
出土古墳=稲荷台1号墳
千葉県市原市の養老川下流域の北岸台地上の12基からなる稲荷台古墳群中の1基。
径約28メートルの円墳。
同古墳には中央木棺と北木棺が置かれており、鉄剣は中央木棺から出土した。
なお、中央木棺からは他に鉄剣3口、鋲留短甲(びょうどめたんこう)1、鉄鏃3、刀子1が出土している。
北木棺からは大刀1口、鉄鏃一種、胡?(ころく)金具1組が出土している。

鉄剣の特徴
銀象嵌(ぎんぞうがん)の銘文有り。

年代=400年代中頃
鉄剣に紀年が書かれていないが、木棺に収められていた鋲留短甲と鉄鏃の形式から400年代中葉と見られている。

銘文(推定)
表面
王賜□□敬安
裏面
此(廷)(刀)□□□

銘文の内容
王への奉仕に対して下賜するという内容の類型的な文章である。 「王」は、倭の五王のうちの一人とみるのが通説。 五世紀中葉に房総半島の一角に本拠をもつ小首長が畿内の倭王のもとに武人として奉仕し、その功績によって銀象嵌の銘文をもつ鉄剣を下賜されるという関係が成立していた。


稲荷山古墳出土の鉄剣の銘文
出土古墳=稲荷山古墳
埼玉県行田市

鉄剣の特徴
全長73.5センチメートル、中央の身幅3.15センチメートル
鉄剣の表裏に金象嵌の115字の銘文、表に57字、裏に58字が刻まれている。
タガネで鉄剣の表裏に文字を刻み、そこに金線を埋め込んでいる。

年代=471年
471年が定説であるが一部に531年説もある。
通説通り辛亥年が471年とするとヲワケが仕えた獲加多支鹵大王とは『古事記』『日本書紀』に出てくる大長谷若建(おおはつせわかたける)命・大泊瀬幼武(おおはつせわかたける)・雄略天皇であり、あるいは『宋書』倭国伝にみえる倭王武であると判断され、

銘文(推定)

辛亥年七月中記乎獲居臣上祖名意富比?其児多加利足尼其児名弖已加利獲居其児名多加披次獲居其児名多沙鬼獲居其児名半弖比

其児名加差披余其児名乎獲居臣世々為杖刀人首奉事来至今獲加多支鹵大王寺在斯鬼宮時吾左治天下令作此百練利刀記吾奉事根原也

訓読
辛亥の年七月中、記す。ヲワケの臣。上祖、名はオホヒコ。其の児、(名は)タカリのスクネ。其の児、名はテヨカリワケ。其の児、名はタカヒ(ハ)シワケ。其の児、名はタサキワケ。其の児、名はハテヒ。(表)

其の児、名はカサヒ(ハ)ヨ。其の児、名はヲワケの臣。世々、杖刀人の首と為り、奉事し来り今に至る。ワカタケ(キ)ル(ロ)の大王の寺、シキの宮に在る時、吾、天下を左治し、此の百練の利刀を作らしめ、吾が奉事の根原を記す也。(裏)

銘文の特徴
115文字という字数は日本で最も長い。
この銘文が日本古代史の確実な基準点となりその他の歴史事実の実年代を定める上で大きく役立つことになった。

銘文の内容
ヲワケの祖先八代の系譜を記している。
ヲワケ一族の伝統とこの鉄剣を作った理由を記している。ヲワケの臣の父(カサハヨ)と祖父(ハテヒ)には、ヒコ・スクネ・ワケなどのカバネ的尊称がつかない。
部民制(べみんせい)の用例がみられない。
ヲワケの臣。すでにウジ(氏)とトモ(伴・部)の成立がみられる。当時の倭国の人名・地名を漢字音で表記している。
獲加多支鹵大王のもとに中国語に精通した記録者の存在を示している。


江田船山古墳出土の鉄刀の銘文
出土古墳=江田船山古墳
熊本県玉名郡和水町(たまなぐんなごみまち)にある江田船山古墳は全長61メートルの前方後円墳。
横口式家型石棺(せっかん)が検出され、内部から総数92点にも及ぶ副葬品が検出された

鉄剣の特徴
刃渡り85.3センチメートルの大刀
その峰に銀象嵌(ぎんぞうがん)の銘文。

年代
年号はない。
しかし、銘文よりワカタケル大王(雄略天皇)の時代と考えられる。

銘文(推定)
治天下獲加多支鹵大王世奉事典曹人名无利弖八月中用大鉄釜并四尺廷刀八十練九十振三寸上好刊刀服此刀者長寿子孫洋々得□恩也不失其所統作刀者名伊太和書者張安也

訓読
天の下治らしめし獲□□□鹵大王の世、典曹に奉事せし人、名は无利弖、八月中、大鉄釜を用い、四尺の廷刀を并わす。
八十たび練り、九十たび振つ。三寸上好の刊刀なり。此の刀を服する者は、長寿にして子孫洋々、□恩を得る也。其の統ぶる所を失わず。刀を作る者、名は伊太和、書するのは張安也。

ワカタケル大王(雄略天皇)の時代にムリテが典曹という文書を司る役所に仕えていた。
八月に大鉄釜で丹念に作られためでたい大刀である。この刀を持つ者は、長寿であって、子孫まで栄えて治めることがうまくいく。 
大刀を作ったのは伊太□(ワ)で、銘文を書いたのが張安である。

銘文の内容
金象嵌の鉄剣と銀象嵌の鉄刀が製作され、それらを下賜された人物が、北武蔵野稲荷山古墳と肥後の江田船山古墳に埋葬されたことになる。
『宋書』倭国伝に引く倭王武の上表文にみえる「自昔祖禰 躬?甲冑 跋渉山川 不遑寧處 東征毛人五十國 西服衆夷六十六國」(東は毛人を征すること五十五国、西は衆夷を服すること六十六国)の表現に対応するかのごとくである。


岡田山1号墳出土の鉄刀
出土古墳=岡田山1号墳
島根県松江市大草町、風土記の丘にある全長24mの前方後方墳。
内部には出雲最古級の横穴式石室がある。

鉄剣の特徴
鉄刀に銀象嵌(ぎんぞうがん)の銘文。
大正年間に出土した時はには完全であったが、その後刀身の半分が失われたために銘文もわずか末尾の12文字しか残っているに過ぎず、しかもさびが進んでいて解読できる御字が少ない。

年代
不明
岡田山一号墳は、500年代後半に造られたとされている。

銘文(推定)
確実なのは、その中の「各田了臣」の四字だけであった。
「各田了臣」は「額田部臣(ぬかたべのおみ)と読む。

銘文の内容
この太刀の出土した場所などから、額田部臣は出雲臣と同族であり、その地域の部民(べみん)の管理者であったと考えられている。


箕谷2号墳出土の鉄刀
出土古墳=箕谷(みいだに)2号墳
兵庫県養父市(やぶし)八鹿町(ようかちょう)小山

鉄剣の特徴
現存長68センチメートルほどの鉄刀で銅象嵌(どうぞうがん)で刻まれている。

年代
608年と推定されている。

銘文(推定)
戊辰(ぼしん)年五月□

銘文の内容
制作年のみ刻まれている。


中国から伝来の中平刀
出土古墳=東大寺山(とうだいじやま)古墳
奈良県天理市にある東大寺山古墳は全長140メートルの前方後円墳。
4世紀後半頃に築造された。

鉄剣の特徴
金象嵌の長さ110センチメートルの鉄刀。

年代
中平とは、霊帝の治世の184年 - 189年の期間の年号。
約200年も経て埋葬された。
下賜された人物とその子孫が権威の象徴として「伝世」としたことによると考えられる。

銘文(推定)
中平□□ 五月丙午 造作支刀 百練清剛 上応星宿 □□□□

訓読
中平□年五月丙午の日に、この銘文を入れた刀を造った。
よく鍛えた鋼の刀であるから、天上では神の御意にかない、下界では災いを避けることができる。


百済からの七支刀
出土古墳=
神功皇后の時代に百済の国から奉られたと伝えられ、奈良県天理市石上神宮に保存されていた。

鉄剣の特徴
鉾に似た主身の左右から三本ずつの枝刃を出して計て七本の刃を持つ形。
身に金象嵌の文字が表裏計61字刻印されている。

年代
未だ定説はない。
泰■四年を泰始四年として468年を当てる説や、369年とする説などがある。
日本書紀の神功皇后52年九月丙子の条に、百済の肖古王が日本の使者、千熊長彦に会い、七支刀一口、七子鏡一面、及び種々の重宝を献じて、友好を願ったという意味のことが書かれている。

銘文(推定)
表面
泰始四年五月十六日丙午正陽 造百練鋼七支刀 呂辟百兵 宜供供侯王永年大吉祥

訓読
表面
泰始四年(468年)夏の中月なる5月、夏のうち最も夏なる日の16目、火徳の旺んなる丙午の日の正牛の刻に、百度鍛えたる鋼の七支刀を造る。
これを以てあらゆる兵器の害を免れるであろう。
恭謹の徳ある侯王に栄えあれ、寿命を長くし、大吉の福祥あらんことを。

裏面
先代以来未だ此(かく、七支刀)のごとき刀はなかった。
百済王世子は奇しくも生れながらにして聖徳があった。そこで倭王の為に嘗(はじ)めて造った。後世に伝示せんかな。

銘文の内容
百済王の近肖王(太子の近仇首王=貴須王)から倭王の「旨」のために造った、との解釈もある。文面からは、対等の関係での贈与と考えられる。



参考資料



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