先代旧事本紀の概要
成立過程・時期
概説
序文には推古天皇の命によって聖徳太子と蘇我馬子が著したもの(『日本書紀』推古28年(620年)に相当する記述がある)とある。
このことなどから、平安中期から江戸中期にかけては日本最古の歴史書として『古事記』・『日本書紀』より尊重されることもあった。
しかし、「皇太子・嶋大臣、共に議りて、天皇記及び国記、臣連伴造国造百八十部并て公民等の本記を録す」という記事に付会して成立年代をさかのぼらせた「偽書」であるといわれることになった。

偽書とされた根拠
しかし、江戸時代に入って偽書ではないかという疑いがかけられるようになり、徳川光圀や伊勢貞丈らの研究によって偽書であることが明らかにされた。
その根拠は以下の通りである。
  文の大部分が『古事記』『日本書紀』『古語拾遺(こごしゅうい)』からの引用で成っていること。
  天皇謚号などのはるか後代でなければ知りえないことに関する記載があること。
  序文と本文との間に不備があることなど。
  『古事記』『続日本紀』『弘仁格式』などと比べて序文の形式が当時のものにかなっていないこと。

成立時期
本文中に加我国(かがのくに)が「嵯峨朝の御世、弘仁十年(十四年の誤りか)に越前国を割て、加賀国と為す」とあり、823年以降とみられる。
また、藤原春海が『日本書紀』の講書を行ない、その中で『先代旧事本紀』に言及した延喜四年(904)~延喜六年のころまでとみらる。
従って、実際には大同年間(806年~810年)以後、延喜書紀講筵(904年~906年)以前と推定されている。

内容
本文の内容は古事記、日本書紀、古語拾遺の文章を適宜継ぎ接ぎしたものが大部分であるが、それらにはない独自の伝承や神名も見られる。
また、物部氏の祖神である饒速日尊(にぎはやひのみこと)に関する独自の記述が特に多く、現存しない物部文献からの引用ではないかと考える意見もある。


編纂者
編纂者の有力な候補
国学者御巫清直(みかんなぎきよなお 1812-92)は明法博士の興原敏久(おきはらのみにく)を挙げている。
この人物は物部系の人物(元の名は物部興久)であり、彼の活躍の時期は『先代旧事本紀』の成立期と重なっている。

その他の説
石上神宮の神官説、石上宅嗣説、矢田部公望説などがある

編纂の目的
『古事記』『古語拾遺』『藤氏家伝』『高橋氏文』『新撰姓氏録』といった、諸氏の家記に関連する書が先んじて編纂され、これに刺激を受ける形で『先代旧事本紀』も作成されたと思われる。
すなわち、物部氏は由緒正しい家柄で、神武天皇以来、代々石上神宮(いそのかみじんぐう)の神を祀ってきたことを主張することにあると考えられている。


評価
価値が低いとする評価
序文に書かれた本書成立に関する記述に疑いが持たれることから、江戸時代に水戸光圀、多田義俊、伊勢貞丈、本居宣長らに、偽書とされて以来、偽書であるとの評価が一般的である。
明治以降、序文に書かれた本書成立に関する記述に関してはともかく、本文内容に関しては偽書ではないとする学者もあったが、近年の研究では、内容そのものの整合性や、他の文献との整合性から、全体的には偽書であるとする評価が固まりつつある

価値があるとする評価
偽書の評価を下されたのは上記の「聖徳太子の撰」を騙ったと見られているためで、内容的には、全体に物部氏に関する独自の伝承が織りこまれている。
これには拠るべき古伝があったのではないかとみられ、物部氏伝承自体がすべて偽作されたわけではないと考えられる。
  巻三「天神本紀(てんじんほんぎ)」の一部
  巻五の「天孫本紀(てんそんほんぎ)」の尾張氏、物部氏の伝承(饒速日尊に関する伝承等)
  巻十の「国造本紀(こくぞうほんぎ)」
これらには、他の文献に存在しない独自の所伝がみられる。
「天孫本紀」には現存しない物部文献からの引用があるとする意見もあり、国造関係史料としての「国造本紀」と共に資料的価値があるとする意見が有力である。


構 成
巻一 神代本紀、陰陽本紀   (天地開闢、イザナギ神話)
【1】天地のはじめと神世七代  【2】国産み  【3】神産み  【4】火神・迦具突智  【5】黄泉の国
【6】身禊(みそぎ)

巻二 神祇本紀  (ウケイ神話、スサノオ追放)
【1】誓約(うけい)  【2】天の岩戸  【3】素戔嗚尊追放

巻三 天神本紀:  (饒速日尊神話、出雲の国譲り)
【1】饒速日尊  【2】天の稚彦  【3】国譲り  【4】大国主神  【5】天忍穂耳尊

巻四 地祇本紀  (出雲神話)
【1】出雲国の素戔烏尊  【2】少彦名命と三輪山の神  【3】大己貴神の試練  【4】地祇の系譜

巻五 天孫本紀(一云、皇孫本紀)  (物部氏、尾張氏の系譜)
【1】饒速日尊  【2】天の香語山命  【3】尾張氏の系譜  【4】宇摩志麻治命
【5】物部氏の系譜〈一世~七世孫〉  【6】物部氏の系譜〈八世~十七世孫〉

巻六 皇孫本紀(一云、天孫本紀)   (日向三代、神武東征)
【1】瓊々杵尊降臨  【2】木花開耶姫  【3】山幸彦と海幸彦  【4】鸕鶿草葺不合尊
【5】神武東征     【6】布都御魂剣の降臨と兄猾・弟猾     【7】宇摩志麻治命

巻七 天皇本紀  (神武天皇から神功皇后まで)
【1】神武天皇  【2】綏靖天皇~孝照天皇  【3】孝安天皇~開化天皇  【4】崇神天皇・垂仁天皇
【5】景行天皇  【6】成務天皇・仲哀天皇・神功皇后

巻八 神皇本紀  (応神天皇から武烈天皇まで)
【1】応神天皇  【2】仁徳天皇  【3】履中天皇・反正天皇  【4】允恭天皇  【5】安康天皇  
【6】雄略天皇  【7】清寧天皇  【8】顕宗天皇  【9】仁賢天皇・武烈天皇

巻九 帝皇本紀  (継体天皇から推古天皇まで)
【1】継体天皇  【2】安閑天皇・宣化天皇  【3】欽明天皇  【4】敏達天皇  
【5】用明天皇・崇峻天皇  【6】推古天皇

巻十 国造本紀
【1】各地の国造(144ヵ国)        詳細は 先代旧事本紀-B 国造本紀へ

神皇系図 1巻
現在、欠けて伝わらない


参考資料
「新訂増補国史大系第7巻  古事記・先代旧事本紀・神道五部書」 (吉川弘文館 2002年)
「歴史読本 先代旧事本紀 前編」 (新人物往来社  2008年 11月号)
「歴史読本 先代旧事本紀 後編」 (新人物往来社  2008年 12月号)
 ウキペディア 「先代旧事本紀」


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先代旧事本紀-A(概要)
全10巻からなり、天地開闢から推古天皇までの歴史が記述されている歴史書。
学術的には偽書とされている。ただし、部分的には資料的に価値があるとする見解もある。