放射線被爆について
東北関東大震災により,甚大な被害を受けられた全ての皆様に,心よりお見舞い申し上げます。
また被災地において,懸命に救援活動にあたっておられる関係の皆様に感謝と敬意を表します。


被曝(ひばく)とは
人体が放射線にさらされることをいう。被曝したときの放射線の量は線量当量(または単に線量)で表す。
線量当量の単位はシーベルト(Sv)。

外部被曝と内部被曝
被曝は人体と放射線源の位置関係、線源のあり様から次のように分類することができる。
体の被曝は、放射線源が体外にあって外部から放射線を被曝する外部被曝(体外被曝)と、飲み込んだり吸い込んだりして体内に取り込んだ放射性物質によって被曝する内部被曝に大きく分類することができる。

自然被曝と医療被曝
天然に存在する微量の放射線源(自然放射線)からも人体は被曝しており、自然被曝と呼ばれる。
また、X線撮影や癌治療など医療・治療における被曝を医療被曝という。

外部被曝と内部被曝
外部被曝
外部被曝と各種放射線
外部被曝
人体外部の放射性物質や放射線発生装置による被曝。

外部被曝と各種放射線
α線は透過力が弱いため線源が体外にある限り悪影響はない。
β線は1センチメートル程度の透過力があり、皮膚表面のみ被曝する。
γ線、X線は透過力が非常に強いため全身を被曝することがある。

外部被曝の防止
外部被ばく防護の3原則
  線源から距離をとる
  放射線を遮へいする
  放射線にさらされる時間を短くする。

外部被曝防護の実際
 @距離
  線量は線源までの距離の2乗に反比例する。
  線源はトングやマジックハンドを用いて扱い、直接触らないようにする。
  放射性物質が皮膚に付着しないよう、ゴム手袋などの保護具を装備する。
 A遮蔽
  α線は紙1枚で遮蔽できる。
  β線はアクリル樹脂板で遮蔽できる。
  γ線は透過力が高いが、やはり遮蔽することができる。
    鉛や金といった密度の高い物質のほうが効果的に遮蔽することができる。
    コンクリートならば厚さ30cmごとに、鉛板ならば厚さ5cmごとに線量を1/10にまで減らす(Co60のγ線の場合)。    中性子線に対しては、質量数の小さい物質のほうが効果的に遮蔽することができる。
    水素や炭素を多く含む物質、例えばやポリエチレンのブロックがよく用いられる。
    また、中性子吸収材と組み合わせて使うこともある。
 B被曝時間
  線量は放射線場にいた時間に比例して増加する。
  放射線場での作業時間ができるだけ短くなるよう、作業計画を綿密に検討する必要がある。

除染
除染
身体(皮膚、髪等)や物体(衣類、機器、施設等)の表面に付着した放射性物質を除去したり、減らしたりするために行う作業。
一般に除染対象物により、皮膚の除染、衣類の除染、機器の除染、施設の除染、エリアの除染などに分けられる。
通常、身体の皮膚の除染には、中性洗剤やオレンジオイルなどが用いられる。
これに対して、物の除染には、浸漬や洗浄、研磨などが行われ、除染剤には合成洗剤や有機溶剤などが用いらる。

除染作業の要点
  放射性物質が付着していないかをまずは測定し、調べる。
  付着していたら、適切な方法で素早く除染作業を行う。
  作業後に放射性物質が取り除かれたかを測定し、確認する。

除染作業の実際
まず衣服に放射性物質が付着していないか測定する。
汚染が確認されれば服を脱ぎ、服はポリ袋などに密封する。
体の表面に物質が付着していた場合には、タオルを使って生ぬるい湯で洗い流すのが基本だという。
せっけんと水でよく洗えば、皮膚表面の汚染はのぞける。
肌を傷つけないよう、皮膚が赤くなるほどこすったり、爪を立てたりしてはいけない。
除染したら、放射性物質が取り除かれたかを測定して確認する。


内部被曝
内部被曝の経路
放射性物質を体内に取り込んだ場合の被曝を内部被曝という。
放射性物質を体内に取り込む経路には以下がある。
  放射性の微粒子や気体を吸い込む
  放射性物質が付着した飲食物を摂取する。
  皮膚や粘膜、傷口から吸収する(ヨウ素131は皮膚吸収がある)。

体内に放射性物質を取り込んだ場合、汚染の除去は外部汚染よりはるかに困難であり、より長期間被曝することになる。
体内に取り込まれた放射性物質がどのように振舞うかは、その元素の種類と化学的性質により様々である。
  例
      ヨウ素は甲状腺に集まる性質がある。
      ストロンチウムは骨中のカルシウムと置き換わって体内に蓄積することが知られている。

内部被曝の危険性
内部被曝は被曝のしかたが外部被曝とまったく異なり、きわめて危険である。

 放射性物質を体内に取り込んでしまった場合には間隔と遮蔽を取ることが不可能。
 よって、内部被曝はすべての放射線が影響を及ぼす。

 特にアルファ線は放射線荷重係数が大きく人体への影響も甚大である。
 また、放射壊変に伴ってニュートリノなどの素粒子が放射されるが、これらは物質をほぼ無限に透過する性質があるものの物質に対しての影響が実質的にないため、この種の問題の際は無視してよいものとされる。

 内部被曝では、飛距離が短いアルファ線、ベータ線の全エネルギーが電離(電子を吹き飛ばすこと)に費やされ、人体に被曝を与える。

 これに対して、外部被曝では、飛距離の短い放射線は届かず、ほとんどガンマ線だけに被曝する。
 また、体外に放射性物質がある場合、放射線は四方八方に放射されるので、身体の方に来るのはほんの一部である。
 したがって、内部被曝の場合は外部被曝の場合にくらべて桁違いに大きな被曝線量を人体に与える。

 放射性の微粒子が非常に小さい場合、体に吸収され、親和性のある組織に入って、沈着、停留する。

 放射性物質が体の同じ場所にとどまると、集中被曝の場所ができる。
 つまり、内部被曝には局所性と継続性がある。繰り返し被曝することによってDNAが変性してゆき、癌になる危険が高まる。

 外部被曝では低線量(少量)の被曝とされる場合でも、同じ放射性物質が体内に入った場合は、桁違いに大きな被曝線量となる。

生涯の健康リスク
生物学的半減期
体内に取り込まれた放射性物質は、時間とともに原子核崩壊をして減っていくのとは別に、生物学的な作用により体外に排出されることによっても減っていく。
いずれの場合も、一定の時間に一定の割合ずつ減少していくので、その減り方は指数関数的であり、一定の時間ごとに半分に減っていく。
原子核崩壊によって半分に減る時間を物理学的半減期(または単に半減期)といい、生物学的な排出によって半分に減る時間を生物学的半減期という。

預託線量
体内に摂取された放射性物質は、その半減期に従い放射能が減衰するとともに、代謝機能により体内から徐々に排泄されます。
この間に放出される放射線により組織や臓器が被ばくします。
預託線量とは、一般成人に対して摂取後の50年間(子供や乳幼児に対しては摂取時から70歳まで)に受ける量を摂取時に受けたと想定した放射線量のことをいう。

内部被曝の防止
防止の原則
内部被曝の経路を遮断する。

吸入の防止
 防塵マスクを付ける。
 放射性物質はインフルエンザウィルスよりも大きいので、通常のマスクでも完全に口鼻を覆えば吸入が避けられる。
 ぬれタオルで鼻や口を塞ぐ。

経口接取の防護
 放射性物質が存在する区域内では飲食、喫煙または化粧を避ける。

皮膚粘膜からの進入防止
 肌着はなるべく“全身が隠れるもの”(レインコートなど)
 帽子”をかぶる。
 手袋”をつける。
 ゴーグル”をする。
 ※特に“傷口”は危険なので、必ず、キズバン、包帯等で守る必要がある。

内部被曝検査
全身カウンタ(ホールボディカウンタ)
全身カウンタは、人の体内に沈着した放射性物質から放出されるガンマ線を人体の外側から検出する計測装置。
人体をそのまま測定することができる大型(複数)のNaIシイチレーション検出器からなる装置。
測定の対象となる放射性核種はガンマ線放出核種であり、代表的なものに、マンガン-54、コバルト-60、セシウム-137などがある。
体内に存在する微量の放射能の定量分析あるいは人体内の放射能分布の測定に利用されている。

甲状腺モニタ
経口あるいは吸入摂取により体内に取込まれた放射性ヨウ素は安定なヨウ素と同様に甲状腺に沈着する。
甲状腺に沈着した放射性ヨウ素の量を測定する測定器を甲状腺モニタという。
検出器には、直径1〜3cm程度の比例計数管、NaIシンチレーション検出器、半導体検出器のいずれか1個または2個が使われる。
一般的には、安定度・感度の高いNaIシンチレーション検出器が広く用いられている。
精密測定には、放射線のエネルギー分解能の優れた半導体検出器が用いられる。

肺モニタ
通常アルファ放射性核種であるプルトニウムの化合物のエアロゾルを吸入することにより、肺に沈着したプルトニウム量を測定する装置のことをいう。
肺に沈着したプルトニウム-239の検出は、この核種から放出される平均17keVの低いエネルギーのX線を、身体外部で肺モニタを用いて行い、定量する。
プルトニウムの線量換算係数が極めて大きいため、検出器は、低バックグラウンド・高感度のものが必要である。
最近では、より放射線のエネルギー分解能の高い高純度Ge(ゲルマニウム)半導体検出器が使用される。

内部被曝の対処法とヨウ素製剤
原子力災害とヨウ素131
動物の甲状腺は、甲状腺ホルモンを合成する際に原料としてヨウ素を蓄積する。
原子力災害時等により、不安定同位体の放射性ヨウ素を吸入した場合は、気管支や肺または、咽頭部を経て消化管から体内に吸収され、24時間以内にその10〜30%程度が甲状腺に有機化された形で蓄積される
放射性ヨウ素の多くは半減期が短く、その代表としてよく知られるヨウ素131 (131I) の半減期は8.1日であり、β崩壊することで内部被曝を起こす。
放射性ヨウ素の内部被曝は甲状腺癌、甲状腺機能低下症等の晩発的な障害のリスクを高めることが、チェルノブイリ原発事故の臨床調査結果より知られている。

ヨウ素剤の投与
大量にヨウ素を摂取した場合は、甲状腺にヨウ素が蓄積され、それ以後にさらにヨウ素を摂取しても、その大半が血中から尿中に排出され、甲状腺に蓄積されないことが知られている。
それを応用したのが、放射線障害予防のための「安定ヨウ素剤」の処方である。
非放射性ヨウ素製剤である「安定ヨウ素剤」を予防的に内服して甲状腺内のヨウ素を安定同位体で満たしておくと、以後のヨウ素の取り込みが阻害されることで、放射線障害の予防が可能である。
この効果は本剤の服用から1日程度持続し、後から取り込まれた「過剰な」ヨウ素は速やかに尿中に排出される。
また、放射性ヨウ素の吸入後であっても、8時間以内であれば約40%、24時間以内であれば7%程度の取り込み阻害効果が認められるとされる。
なお、放射性ヨウ素の被曝による甲状腺の障害は、甲状腺の機能が活発な若年者、特に甲状腺の形成過程である乳幼児においてに顕著であり、40歳以上では有意ではないため、本剤の投与は40歳未満の者に対してのみ行われる。
国際原子力機関 (IAEA) の基準では本剤の適用範囲を年齢・性別を問わずに適用としているが、世界保健機関 (WHO) の基準では40歳未満としている。日本においては、日常的にヨウ素を多く含む海藻類の摂取が日本以外の国と比較して多く、過剰摂取回避に注意する必要がある。

原子力災害時の推奨摂取量(WHOの推奨値)
年齢 ヨウ素摂取量(mg/日) ヨウ化カリウム摂取量(mg/日) ヨウ素酸カリウム摂取量(mg/日) ヨウ素を100mg含む錠剤として
1日あたり飲む個数
12歳以上 100 130 170 1錠
3歳〜12歳 50 65 85 1/2錠
1ヶ月〜3歳 25 32 42 1/4錠
1ヶ月未満 12.5 16 21 1/8錠



自然被曝と医療被曝
自然被曝
  自然被曝と被曝源
天然に存在する微量の放射線源(自然放射線)からも人体は被曝しており、自然被曝と呼ばれる。

天然に存在する外部被曝源
  宇宙線や地殻からの放射線

天然に存在する内部被曝源
  カリウム40や炭素14のような天然に存在する放射性同位体がある。
  体重60kgの人体で、カリウム40で4000ベクレル、炭素14で2500ベクレル、の天然の放射能があると言われている。

地域別の自然被曝
日本における年間平均値(1.4ミリシーベルト)
宇宙線から年間ほぼ300マイクロシーベルト、地殻、建材などからの自然放射性核種((カリウム40ほか)から年間300マイクロシーベルト前後、自然から年間で600マイクロシーベルトの外部被曝を受けている。
そして体内に存在している自然放射性核種(カリウム40、炭素14)から年間ほぼ250マイクロシーベルトの内部被曝を受けている。
これらに加え、空気中に含まれているラドンから年間約500マイクロシーベルトの被曝を受けている。
自然から合計年間1000-1500マイクロシーベルト(1.0-1.5ミリシーベルト)前後の被曝を受けていることになる。
宇宙から 0.35ミリシーベルト
大地から 0.30ミリシーベルト
食物・体内から 0.25ミリシーベルト
大気中のラドンなど 0.50ミリシーベルト
合計 1.40ミリシーベルト

世界平均年間(2.4ミリシーベルト)
宇宙から 0.39ミリシーベルト
大地から 0.48ミリシーベルト
食物・体内から 0.29ミリシーベルト
大気中のラドンなど 1.26ミリシーベルト
合計 2.42ミリシーベルト


時間あたりの被爆量
日本での平均 
  1年間  1.40mSv
  1日    3.84μSv(=1.40mSv÷365日)
  1時間  0.16μSv(=1.40mSv÷365日÷24時間)

世界平均
  1年間  2.42mSv
  1日    6.63μSv(=1.42mSv÷365日)
  1時間  0.28μSv(=2.42mSv÷365日÷24時間)


医療被曝
医療被曝とは
放射線を利用した診断及び治療の医療行為によって受ける被検者及び患者の被ばくを医療被ばくという。
X線などの体外被曝と核医学などによる体内被ばくとがあり、被ばく線量は個人によって被ばくの条件が異なるためその評価は困難であるが、国民線量(集団線量)への寄与は自然放射線によるものに次いで大きく、人工放射線のなかでは最大である。医療被ばくは障害防止法上での線量等の算出から除外される。

詳細は、医療と放射線



参考資料
「必修放射線医学」 (南江堂 1999 高橋睦正)
「歯科放射線学」 (医歯薬出版)

「知っておきたい放射能の基礎知識」 (株 ソフトバンククリエイティブ 2011 斉藤勝裕)
「新編教養物理学」 (学術図書出版社 1985 原島鮮 )
「チャート式シリーズ 新物理II」 (数研出版 1978 力武常次)
「放射線の影響が分かる本」 (財団法人放射線影響協会)

「新編教養物理学」 (学術図書出版社 1985 原島鮮 )
「チャート式シリーズ 新物理II」 (数研出版 1978 力武常次)

Wikipedia 「放射線」