摂食嚥下障害を有する患者への、多職種によるチ-ムアプロ-チの円滑化を図るためには、各職種に共通に理解された診査、評価、治療の流れが必要であると思われます。
 そこで、簡易的な診査・評価表を作成して患者の病態把握を試みました。それを利用して、摂食機能療法を施行した進行性核上麻痺患者の1例を経験しましたので、看護上の問題点等を考察しながらその概要を報告します。



 患者は80歳の男性で、平成元年に脳梗塞を発症し、平成10年12月より当施設に入所していました。
 平成11年3月、脳血管障害で当施設に入所している患者に対して行っているスクリーニング検査の結果、精密検査の必要が指摘されました。
 鳥取大学付属病院にて精査を受け、進行性核上麻痺の診断を得ましたが、症状が安定しているため当施設再入所となりました。
 平成12年1月、パーキソニズム症状が悪化し、3月より食物の口腔内残留が出現するようになったため、食事内容の変更で対処しました。
 平成12年4月から著しい食事時間の延長、およびむせを認める様になり、歯科受診時に嚥下障害に関する簡易診査を施行しました。




 当施設では、日常の摂食状況及び問診表によって、摂食嚥下障害が疑われる患者についてはフレミングの嚥下障害指数を元にした簡易的な臨床診査を行っています。
 スライドはその概要を示したものです。詳細は省略しますが、嚥下障害の問題点とその程度を把握するために各期別に点数化を図った診査表を用いて評価を行っています。




 A群は明らかな嚥下障害を有する患者、
 B群は過去に嚥下障害の既往はあるが現在は経口摂食している患者、
 C群は全身疾患はあるが、通常に経口摂食している患者の得点率を示します。

 本症例の診査結果は34.0% で、B群に近似していると考えられました。




 各期別の得点率を見ると、本症例では準備期の機能は比較的保たれていましたが、口腔・咽頭期の機能低下が著明で、他はB群に近似した値を示していました。
 直ちに間接訓練、直接訓練のプランを立て、摂食機能療法を開始しました。

 しかし原疾患の増悪によると思われる意識レベルの低下が顕著となり、同時に嚥下状態の悪化も懸念されました。
5月4日、同愛会博愛病院に入院となり、原疾患の治療が開始されました。
 また、同時に行った嚥下造影検査では中等症嚥下障害を認めました。










 原疾患の改善に伴い、1ヶ月後の6月4日博愛病院を退院しました。
 再び当施設入所となりましたが、嚥下能力の低下は持続しており、当施設で定めた治療の流れに沿って摂食機能療法を再開しました。
 スライドは、本症例に重点的に行った訓練を示したものです。

 退院前後の簡易診査では、初診時の結果と比し準備期の機能低下が著明で、そのためバンゲ-ド法に準じた筋機能療法、咽頭部の寒冷刺激療法、笛を用いた吹送訓練、及び口腔保清の徹底化等を図りました。




 治療の結果、診査表得点率は19.1%に減少し、C群に近似した値となりました。




 審査評得点率の詳細を見ると、全身状態、体幹機能に大きな変化は有りませんでしたが、特に準備期、先行期の能力が顕著に改善したと思われます。
 現在も改善したその機能維持のために、各職種によるチ-ムアプロ-チを継続しております。





全身状態、意識障害の有無の把握



口腔・咽頭の状態、反射・運動の状況把握



 摂食後の様子や体幹機能の状態把握等

 以上、大凡の治療経過を示しましたが、本症例では刻々と変化する摂食状況の推移が認められました。
 その変化を把握し安全な経口摂取を継続するためには、日々の観察が要求されると思われます。
 観察は主治医のみならず、実際に介護に関わる全ての職員がその要点を理解し、毎食ごとに行う必要が有ると実感しました。
 スライドは日常の摂食介護において私たちが実施している項目を挙げたものです。




 また、摂食機能療法を行うにあたっても、関与する職員の連携が為されなければ効果は減退するものと考えられます。
 そのため当施設では治療の流れ図を作製し、それに従って各職員がその職種の特性を生かした訓練を実施しています。
 スライドは当施設で使用している治療の流れを示したものです。
 これに基づいて、主治医である医師、歯科医師、看護婦、介護職員、PT、ST、栄養士が、施設利用者に関する情報をカンファレンスで検討し、問題解決に向けてのプラン修正等を行っています。




 以上、私たちが実施している診査、評価、治療、そして介護の概要も併せて報告致しました。スライドは実際の訓練の状況を示したものです。
 
 
     

 これらをより確実に遂行するためには、日々の実際の看護、介護を行う職員が、施設利用者の基礎疾患の進行状態を早期に察知し、誤嚥性肺炎の危険性を絶えず認識するという視点を高めていく事が重要であると痛感した次第です。




 摂食機能障害を有する患者への対応においては、摂食嚥下障害の問題点を把握し、それに対する重点的な治療訓練が必要であると思われます。
 また、治療訓練に関与する各職種の連携の円滑化を図るためには、共通に理解された診査、評価、治療、及び介護の流れを保持する事が要求されると思われます。






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『摂食嚥下障害を有する進行性核上麻痺患者の1例』
 (診査・評価・治療、および介護におけるチ-ムアプロ-チについて)
 
 
介護老人保健施設大会中国地方会  2000 


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