EBM
EBMの概念
根拠に基づいた医療とは
1990年にGordon GuyattによりEBM (Evidence-based Medicine)という概念が提唱された。
これは治療効果・副作用・予後の臨床結果に基づき医療を行うというもので、医学誌の過去の臨床結果などを広く検索し、時には新たに臨床研究を行うことにより、なるべく客観的な疫学的観察や統計学による治療結果の比較に根拠を求めながら、患者とともに方針を決めて治療を行うというものである。
すなわち、医療従事者の経験や直観によるのではなく、客観的な疫学的観察や統計学による治療結果の比較に根拠を求めながら行う医療のことである。

根拠に基づかない医療とは
医療従事者の経験、権威者の推奨、あるいは根拠レベルが低い場合など。

根拠とは
医学的根拠は、過去にどのような検証が為されてきたかによってその治療法の信頼度が異なる。
一般的にレベルは概ね4-6段階に分類されている。


Evidence Lebel (エビデンスレベル)
Lebel-A
   信頼度  =high lebel・・・真と言いきれる強い根拠が有る。
   必要条件=複数のランダム化比較試験のメタ分析が行われていること。
   推奨度  =行うことを強く勧めるだけの科学的根拠がある。

Lebel-B
   信頼度  =High lebe・・・真と言いきれる根拠が有る。
   必要条件=一つ以上のランダム化試験が行われていること。
   推奨度  =行うことを中等度に勧めるだけの科学的根拠がある。

Lebel-C
   信頼度  =moderate lebel・・・真偽判定の十分な根拠は不明。
   必要条件=コホート研究や症例対照研究などの分析疫学研究が行われていること。
   推奨度  =そのほかの理由に基づいて勧めるが科学的根拠はない。

Lebel-D
   信頼度  =Low lebel・・・根拠が無く、真偽判定は不可。
   必要条件=ケースシリーズやそのほかの記述的研究が行われていること。
   推奨度  =科学的根拠がないので、勧められない。

Lebel-E
   信頼度  =Extreamly Low lebel・・・根拠が無く真とは言えない。
   必要条件=専門委員会やエキスパートの意見
   推奨度  =行わないよう勧められる


各種の臨床試験について
① メタアナライシス(meta-analysis)・・・(前向きの研究=これから結果が出るか否か調べる)
過去に独立して行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析した系統的総説。
すなわち、研究の統合と研究の評価を行うものである。
一般的にメタアナリシスは次の手順で進められる。
  primary analysis
    元の研究(データ収集,データ処理,結果の公表からなる)
  secondary analysis
    別の研究者による原データの再分析
  meta-analysis
    複数の研究結果から,原データではなく平均値や標準偏差などから,要約統計量を引き出す

個々の研究ではデータ不足のために有意な結果がでなかったとしても、メタアナリシスによってより精度の高い(標準偏差の小さい)結果を得ることが出来る。
一方でメタアナリシスは個別研究にはない問題やバイアス(偏り)を抱えている。

② ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)・・・(前向きの研究)
治験及び臨床試験等において、データの偏り(バイアス)を軽減するため、被験者をランダムに処置群(治験薬群)と比較対照群(治療薬群、偽薬群など)に割り付けて実施し、評価を行う試験。
RCTの和訳としては、他に無作為割付比較試験、無作為比較試験 、無作為対照試験 、無作為臨床試験、無作為化比較試験、無作為化試験、無作為化臨床試験、ランダム化比較対照試験、など様々

③a コホート研究・・・(前向きの研究)
分析疫学における手法の1つである。
特定の因子に暴露した集団と暴露していない集団について、研究対象となる疾患への罹患率を調査し比較することで、因子と疾患の関連を検討する研究手法。要因対照研究(factor-control study)とも呼ばれる。
観察の対象となる集団は必ずしも人間ではなく、例えばある物質を与えたマウスと与えないマウスの間で癌の発生率を調べるような研究もコホート研究と呼ばれる。

③b 症例対照研究・・・(後ろ向きの研究=すでに結果が出ているか否か調べる)
分析疫学における手法の1つで、すべての事象がすでに起こってしまった過去のことを解析する。
研究対象となる疾患に罹患した集団と罹患していない集団について、特定の因子への暴露状況を調査し比較することで、因子と疾患の関連を検討する研究手法。患者対照研究結果対照研究とも訳される。
コホート研究と異なり罹患率を求めることはできず、因子と疾患の関係は相対危険度という形で求められる。
多数の被験者の暴露状況を長期にわたってフォローアップしなければならないコホート研究に比べ、比較的小規模・短期で行なうことが出来る一方、対照群となる罹患していない集団を選ぶ時に選択バイアス(selection bias)が入りやすいという問題がある。

④a 相関研究(症例シリーズ報告)(case series)・・・(後ろ向きの研究)
単独または少数の施設にある疾患の患者が集まっている場合に、過去の治療内容や予後を集計して一覧化する。
稀に見る疾患の場合などに、治療と効果や有害事象との相関関係の仮説を示唆できることがある。

④b 記述的研究(症例報告)(case report)・・・(後ろ向きの研究)
個別の症例の治療を経験した後に、教科書的な経過をたどらなかったもの、あるいは教科書的な治療を超える工夫を行ったものについて、今後の参考に資するために詳細を報告する。
ごく稀に見る疾患の場合には今後の治療に直接参考になる他、未知の疾患を最初に報告するきっかけとなる。

⑤専門委員会やエキスパートの意見


各種の臨床試験の分類について
上記の研究方法は以下の様に分類されている。

記述型研究・・・仮説を記述
  症例報告  症例シリーズ報告   

分析疫学的研究・・・仮説を分析、検証 
  症例対照研究  コホート研究  

実験的研究(介入型)・・・仮説を(介入実験して)確かめる
  メタアナリシス  ランダム化比較試験
  


歴史研究におけるEBMを参考にした資料の信頼度判定とレベル化
歴史研究において検討対象となる資料(=史料)が抱える問題点
歴史研究の資料にはその内容に真偽の判定が付けがたいものも含まれる。

①地理学的資料、考古資料
すでに自然科学的検証が済まされているものがほとんどで、真偽判定に疑いの余地は少ないと思われる。

②文献的史料
十分な史料批判が施されていたり、考古資料等による物的裏付けが有るなどの信頼度の高いものもある。
しかし、真偽に疑問を生じざるをえない史料もある。

③伝承学的資料
特に伝承学的資料については、真偽判定に苦慮を要する場合が多々有るものと思われる。

歴史研究資料の真偽判定では、従来の史料批判法で明らかに判定が可能なものについては問題は無い。
しかし、真とも偽とも判断が下せなものについては、前述のEBMにおける科学的根拠信頼度に準じての歴史資料のレベル化を試みたい考える。

すなわちその資料の信頼度を段階化(レベル化)する試みを行う。
EBMにおけるレベル化と推奨度の関係をそのまま適用する事は困難であるが、次項に記すような考え方で歴史研究の資料の信頼度レベルを仮定義してみることとする。


Lebel-Aの歴史資料
信頼度=high lebel
真と言いきれる強い根拠が有る。

Lebel-AとするためのEBMでの必要条件
複数のランダム化比較試験のメタ分析が行われていること。
すなわち以下の順序で検証が為されている場合を指すと考えられる。
  ①primary analysis    
     元の研究がしてある(=データ収集,データ処理,結果の公表がしてある)
  ②secondary analysis
     別の研究者による原データの再分析
  ③meta-analysis
     複数の研究結果から,原データではなく平均値や標準偏差などから,要約統計量を引き出す   

Lebel-Aとするための歴史研究での必要条件
①引用関係がない二つ以上の史料に同一の記述が有る。
  かつ、一致した原因が、偶然の一致となる可能性が極めて低いと考えられる。
②史料の記述が、科学的に証明された他の資料(考古資料など)と矛盾しない。
③十分な史料批判がおこなわれ、かつ利害関係のない複数の研究者によって再検証されている。
 

Lebel-Bの歴史資料
信頼度=High lebe
真と言いきれる根拠が有る。

Lebel-BとするためのEBMでの必要条件  
一つ以上のランダム化試験がおこなわれていること。

Lebel-Bとするための歴史研究での必要条件
①一つ以上の史料批判がある。
  かつ、史料の記述が、科学的に証明された他の資料(考古資料など)と矛盾しない。


Lebel-Cの歴史資料
信頼度=moderate lebel
真偽判定の根拠は不明。
しかし、そのほかの理由に基づいて再検討の上で史料として採用する。   

Lebel-CとするためのEBMでの必要条件
コホート研究や症例対照研究などの分析疫学研究が行われていること。

Lebel-Cとするための歴史研究での必要条件
①真であると評価された史料とほぼ矛盾しない。
  しかしそれを証明する科学的根拠も無い。
②史料に内部矛盾が無い。
  しかしそれを証明する科学的根拠も無い。
③真であると評価された史料と若干矛盾する。
  しかしそれを明らかに否定する科学的根拠も無い。


Lebel-Dの歴史資料
信頼度  =Low lebel
偽である可能性が有る

Lebel-DとするためのEBMでの必要条件
必要条件=ケースシリーズやそのほかの記述的研究が行われていること。
   
Lebel-Dとするための歴史研究での必要条件
①真であると評価された史料と内容が一致しない。
  しかしそれを明らかに否定する科学的根拠も無い。
②科学的に証明された他の資料(考古資料など)と矛盾する。
③史料に整合性が無く、内部矛盾が存在する。


Lebel-Eの歴史資料
信頼度  =Extreamly Low lebel
偽と言いきれる強い根拠が有る。


Lebel-EとするためのEBMでの必要条件
専門委員会やエキスパートの意見

Lebel-Eとするための歴史研究での必要条件
①真であると評価された史料と明らかに矛盾する。
  かつ、科学的に証明された他の資料(考古資料など)と明らかに矛盾する。
②史料に整合性が無く、内部矛盾が存在する。
  かつ、科学的に証明された他の資料(考古資料など)と明らかに矛盾する。
③否定しうる科学的根拠がある。



まとめ
資料の信頼度判定とレベル化
歴史資料の真偽判定を行う場合、すべてに真偽の判断が下せない場合もあり得る。
そのため、レベル化、点数化を図っておいて柔軟に対応したいと考える。

レベル 点数 内 容 材料の採否 補 足
Level-A +2 真である可能性が極めて高い 材料として採用 極めて有力な材料
Lebel-B +1 真である可能性が高い 材料として採用 有力な材料
Lebel-C ±0 真であるかもしれないが
真偽の判定が出来ない
材料として採用 しかし再検証が必要
Lebel-D -1 偽である可能性がある 再検証 再検証が必要
Lebel-E -2 偽である可能性が極めて高い 不採用


点数化した資料の使用方法
第4章「考察」の項において使用予定である。


参考資料
「EBM 医学研究・診療の方法論」 (中外医学社 2000 県俊彦)
「エビデンス主義 統計数値から常識のウソを見抜く」 (角川SSコミュニケーションズ 2009 和田秀樹)

Wikipedia 「根拠に基づいた医療」


 「ファンタジ-米子・山陰の古代史」は、よなごキッズ.COMの姉妹サイトです
   米子(西伯耆)・山陰の古代史   







EBM(Evidence-Based Medicine)を参考にした資料の信頼度判定とレベル化
 米子(西伯耆)・山陰の古代史
EBMとは、医療従事者の経験や主観によるのではなく、実証された医学的根拠に基づいて実施する医療のことをいう。
EBMではその科学的根拠の信頼度がレベル化されて治療の選択に用いられている。
歴史研究にもこのレベル化の概念を準用し、資料の信頼度判定の参考にしてみたいと考える。